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御蔵島 野生化ネコ捕獲プロジェクト【Vol.3
プロジェクトへの想いを聞く。
〜プロジェクトメンバーインタビュー〜

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集合写真

地域課題を解決するさまざまなプロジェクトの中でも珍しい、大学・研究機関、島民、島外団体、行政の「四位一体」で進める「御蔵島 野生化ネコ捕獲プロジェクト」。携わるメンバーたちにプロジェクトに関わるきっかけや想いを聞きました。

プロジェクトの概要については【Vol.1】へ→

プロジェクトの活動レポートは【Vol.2】へ→

1:「御蔵島のオオミズナギドリを守りたい有志の会」共同代表:長谷川 潤さん

長谷川さんメイン
長谷川さんインタビュー
◆長谷川 潤
御蔵島のオオミズナギドリを守りたい有志の会」共同代表

海と自然と生き物を愛するダイビングガイド兼ライター。御蔵島で生まれ育ったキジトラポルカ」と、石巻生まれの茶トラミナモ」と一緒に暮らす。

自分は、本当に「御蔵島が好き」と言えるのか?

御蔵島に初めて来たのは1997年。そこからイルカウォッチングにハマり、御蔵島が大好きになりました。2011年の東日本大震災以降、しばらく御蔵島から離れていたのですが、2015年に久しぶりに御蔵島に来た時、宿に貼ってあったネコの里親募集のポスターを見かけました。そこではじめて、この島で起こっているオオミズナギドリと野生化したネコの問題を知りました。

その時はこの問題に積極的にかかわろうという気持ちはなく、自分の飼いネコ「ミナモ」の友だちとして、大好きな御蔵島で暮らしていたネコを家族に迎えよう、とだけ思っていました。御蔵島のネコを村役場から預かって譲渡している動物病院が都内にあると聞き、その病院を探している中で、当時、御蔵島の野生化ネコ対策の「旗振り役」を担っていた山階(やましな)鳥類研究所の岡奈理子先生に辿り着きました。岡先生は、日本のオオミズナギドリ研究の第一人者。御蔵島の異変に誰よりも早く気づき、野生化ネコ対策の必要性を村役場に伝え、自らも活動されていました。

岡先生との出会いによって、この島の野生化ネコの問題が想像以上に深刻であることを知りました。御蔵島の自然全体が深刻な危機にさらされている中、私を含め御蔵島に来るほとんどの人はイルカしか見ておらず、島に来たら港と民宿の往復のみ。「それで自分は本当に『御蔵島が好き』と言えるのか?」と思ったのです。

ネコ捕獲・譲渡の開始。そして森林総研・亘先生との出会い。

「知ってしまった者の責任」とでも言いましょうか。誰かがやらないと、御蔵島からオオミズナギドリが居なくなってしまう。知っていて何の行動も起こさないことにいたたまれなくなって、2016年、同じ想いを抱いていたドルフィンスイムガイドの草地ゆきと共に「御蔵島のオオミズナギドリを守りたい有志の会」を立ち上げました。最初は、SNSを使った広報や募金などで岡先生の活動をサポートしていましたが、2017年3月に岡先生が研究所を退官したことを機に、御蔵島の野生化ネコを捕獲し譲渡する活動を引き継ぐことになりました。

当初は、知り合いの動物保護団体からネコ捕獲のノウハウを教わりつつ、細々とネコの捕獲を続けていました。2017年当時は野生化ネコの正確な頭数や島内での分布・行動パターンも分かっておらず、このような「手探り」での捕獲活動がオオミズナギドリを救うことに直結するとは考えていませんでした。ただし、やみくもにネコを捕獲していたわけではありません。「ネコ捕獲や譲渡、情報発信のノウハウを蓄積すること」「島内外の協力者と信頼関係を築くこと」そして、「この問題を解決する力を持つ『誰か』に見つけてもらうこと」。それが当会の初期のミッションでした。

活動を続けていくうちに、島民の井上三喜(みつき)さん・愛子さん、西川商店の西川トミエさん・弥生さんなど、ネコ好きの島民が応援してくれるようになりました。また、捕獲したネコの預け先として、東京都内の保護猫カフェ「たまゆら」や個人の預かりボランティアさんたちと良好な関係を築くことができました。その結果、2020年度には、当会単独で年間45頭のネコを捕獲し、内地に移送・譲渡できるまでになりました。そしてこの年「この問題を解決する力」を持つ森林総研の亘先生に声をかけていただき、翌2021年度から一緒にプロジェクトを立ち上げることになりました。

有志の会立ち上げメンバー
◀︎御蔵島のオオミズナギドリを守りたい有志の会」共同代表の草地ゆき(写真左)と、活動を始めるきっかけとなった山階(やましな)鳥類研究所の岡奈理子先生(写真中央)。会結成から間もない20171月に撮影。
保護されたネコ

ネコも人も幸せにすることが今のミッション。

プロジェクトの初年度は、ネコの捕獲と受入れ・譲渡先探しの両方に、ほぼ等しい力を割いていましたが、大学院生メンバーや島民チームが捕獲を担ってくれるようになり、またネコの受入れ数も年間約100頭と大幅に増えたため、2年目からは捕獲したネコの受入れ・譲渡先探しに重点を置くようになりました。飼いネコと同じレベルの医療処置を施し、心身ともに健康な状態で一般のご家庭に届けること。それが現在の当会の最重要ミッションです。

活動をする上で気をつけていることは、「昔から頑張っている保護団体の足を引っ張らない」ということです。他の保護団体と飼い主さんの取り合いにならないよう、新しい層の譲渡先を開拓することを常に心掛けているのですが、ここ数年でようやくその成果が出つつあります。当初、ネコを家族としてお迎えしてくれる方は、元々動物愛護に興味がある方が多かったのですが、最近では動物愛護への関心のみならず、「御蔵島が好きだから」「自然を守るという目的に共感したから」という理由で受け入れを希望する方が増えてきました。

野生化ネコや野良ネコの保護が日本全国で重要な課題となっている今、御蔵島のネコだけが幸せになるのではなく、すべての保護ネコに「ずっとのお家」が見つかり、ネコも飼い主さんも幸せになってくれることが、一番の願いです。

◎「御蔵島のオオミズナギドリを守りたい有志の会」のHPはこちら→

2:島民メンバー:井上三喜さん

みつきさんメイン
みつきさんインタビュー
◆井上三喜(みつき)
プロジェクト島民メンバー

御蔵島出身。民宿MITOMIオーナー。夏場はイルカウォッチング船の船長をし、冬場のオフシーズンはプロジェクトメンバーとして、野生化ネコの捕獲活動を行っている。

「いまどれくらい」「あとどれくらい」が見える。

もともとネコが好きで、自分の家でも2匹のネコを飼っていました。御蔵島のネコの問題は個人的にも気になっていて、自分自身もわずかながら捕獲をしていたところ、御蔵島でネコの捕獲・保護活動をしていた長谷川さんとつながり、一緒に取り組むことになりました。

2021年に森林総研の亘先生たちが来てくれるまでは、ネコの捕獲をしていても「あとどれくらいいるんだろう?」「どれくらい捕獲できれば終わるんだろう?」ということがわからず、手探りのままでした。亘先生たちが来てくれてからは「いまどれくらい」「あとどれくらい」というのがデータで見れるようになりました。

正直なところ、数値で示される前までは、島民もオオミズナギドリが増えた減った、ネコが増えた減った、など興味関心がありませんでした。2021年に始まったこのプロジェクトは4年目を迎えましたが、取り組みの結果が見える化されることで、明らかに島民の課題意識は高まりましたし、同時に理解を示し、協力してくれる人も増えました。

島外と島内のパイプ役として。

プロジェクトメンバーそれぞれに強みがあって、生かし合っている感じがします。亘先生をはじめとした森林総研や学生チームはデータ分析。長谷川さんはネコの保護や譲渡先探し。そして島民の私は、土地勘が誰よりもあって、地図や机の上ではわからない御蔵島の情報を知っています。すごくバランスがいいフォーメーションですね。

また私は、島民への説明や理解促進にも一役買っているつもりです。プロジェクトの開始当初は島民の理解も薄く、ネコを捕獲する青いゲージ(罠)を見てクレームを言う島民もいました。島外から来た亘先生や長谷川さんと島民をつなぐパイプ役として、私が取り組みの説明をすることで、今では「今年もやってるね。がんばってね」と島民から理解を得られる状態になっています。

三喜さん

御蔵島は、魅力的であり続けないといけない。

御蔵島の人口が劇的に増えてほしい、とは思っていません。でも、少しは増えてほしいと思っています。新しい人が入ってくれることで、新しい産業が生まれるから。そのために、御蔵島は魅力的であり続けなければならないと思うんです。亘先生や長谷川さん、学生の徳吉君や野瀬さん、松山君のような人たちは、御蔵島の価値をより高めてくれる存在です。私にできることは、彼らのような御蔵島を支援してくれる人たちと島内の人をつなぐことだと思っています。

3:東京大学 大学院生:徳吉美国さん・松山侑樹さん

学生二人メイン
学生二人インタビュー
◆徳吉美国(右)
東京大学 博士課程大学院生
野生化ネコによるオオミズナギドリへの影響を研究するため2018年より御蔵島で調査を始める。コロナ禍の2020年より御蔵島に住み込み、調査・研究とプロジェクトの運営を行っている。

◆松山侑樹(左)
東京大学 修士課程大学院生
イルカ調査員として島に滞在していたが、御蔵島の海全体に魅力を感じるようになり、より探求するために大学院に進学。オオミズナギドリを中心に御蔵島の海洋生物を支える餌資源を研究している。

二人いれば、森のことも海のことも分かる。

◆徳吉:2018年から調査でたびたび御蔵島に来ていましたが、コロナの影響で島に来るのが簡単でなくなりました。調査や研究もやりにくくなり、それならばいっそ住んでしまえ、と2020年から御蔵島に住むようになりました。年に300日近く、年末年始も島を離れず、研究やネコを捕獲する日々を送っています。

そんな中、オオミズナギドリがネコだけでなく海からの影響も受けるため、海に詳しい人が必要だとずっと思っていました。私は海に潜ったこともないし、釣りをしたこともありません。そこで、イルカ調査員として来ている松山君が魚や海に詳しいと知って、私から声をかけました。

◆松山:私は学部生の時は佐渡島(新潟県佐渡市)で研究をしたりしていました。御蔵島では魚を釣って、その魚が何を食べているか、オオミズナギドリが何を食べているかなどを調べています。徳吉さんはネコやネズミといった森の中のこと。私は海や魚のこと。それぞれ得意分野がちがうので補完し合っています。

島に住むことで、視野が広がった。

◆徳吉:2018年。私がまだ調査1年目の時、島民向けにネコがオオミズナギドリに与える影響について発表をする機会があり、「御蔵島にはこんな問題があるんだ。解決しなきゃいけないんだ」と訴えかけました。今考えると、それは配慮が足りなかったかもしれません。外の人間が突然やって来て、自分の地域のことをそんな風に言われて、島民のみなさんはどう思ったのか。想像すると、とてもひどいことをしたのでは、と反省しました。

それからは、この取り組みをおもしろく伝えるようにしました。御蔵島には高校がないので、子どもは15歳になったら島外に出ていきます。「15歳までに、島のおもしろいことを体験させよう」と大人たちが色々と企画を考える「みくらしまじゅーごCLUB」というものがあるのですが、そこでオオミズナギドリについて発表して欲しいと言われたのです。その時に余談のつもりで話したシマヘビの話が、想定外に子どもたちにウケたようで、それから子どもが私の家にシマヘビを持って来るなどして交流が始まり、島の大人とのつながりもできました。島の子どもたちには本当に救われましたね。

つながりができたことで、島民との協力体制ができました。それまでは、研究者の世界で価値があるとされる行動や考え方にとらわれていたんだと思います。島でほぼ一年中生活をし、島民の価値観を理解していくことで、自分自身の幅も、島民とのつながりも広がりました。

徳吉さん
松山さん

島民と「混ざり合う瞬間」が最高に楽しい。

◆徳吉:研究やプロジェクトは一人でできるものではありません。私はネコアレルギーなので(笑)、捕獲したネコのお世話をしてくださる島民の奥様たちの存在は頼もしいかぎりです。そして何より、島民メンバーの井上三喜さんには助けられました。以前の御蔵島はそれほど野生化ネコの対策に力を入れているとは言えませんでした。「そんな地域でネコの研究をする意味があるのか?」とモチベーションが下がっていた時期もありました。

そんな時、誰から頼まれたわけでもなく、自主的にネコの捕獲を行なっていた井上三喜さんの姿を見て、とても勇気づけられました。一緒にプロジェクトに取り組むようになってからは、森のカメラの撮影状況を報告し合うなど、さまざまな意見交換をするようになりました。同じ映像を見ているにも関わらず、お互いが違う視点を持っているので、議論をするのが何より楽しいですね。

◆松山:釣りをしていると、島民の方と触れ合うことができます。波や潮の流れに詳しい人もいて、島に住んでいる人しか知らないような情報を聞くことができます。私たちはデータの面で、島民の方々はリアルな情報で、それぞれ意見交換して議論する。その「混ざり合う瞬間」がとても楽しいし、お互いにとってプラスになると思っています。

カメラのチェック

4:北海道大学 大学院生:野瀬紹未さん

野瀬さんメイン
野瀬さん
◆野瀬 紹未(つぐみ)
北海道大学 博士課程 大学院生

大学で動物福祉・動物の行動学を学び、卒業後は一般企業に就職。その後、人と動物の問題について深く学びたいという想いから会社を辞めて大学院に進学し、御蔵島をフィールドとして調査・研究とプロジェクトの運営を続ける。プロジェクトで捕獲した茶トラ杢(もく)」と一緒に暮らす。

「動物の問題」ではなく、「人の問題」だと思った。

私がネコに関心を持ったきっかけはペットの殺処分問題でした。地域ネコ活動や保護ネコ活動に携わりながら調べていくうちに、問題は人と動物の軋轢、いや、もっと突き詰めると「人と人」の問題なのではないか。そう捉えるようになりました。そして就職した会社を退職し、ネコの問題をテーマに研究するため、生態学と社会学を扱う北海道大学の大学院に進学しました。

どの場所を調査・研究の対象にしようかと探している時に参加したシンポジウムで、御蔵島が抱えている課題を知りました。その時、登壇されていたのが山階(やましな)鳥類研究所の岡先生。「御蔵島は緊急事態なのに、まだ有効な手を打つことができていない」というような話を聞き、「ぜひやらせてください」と岡先生にコンタクトを取り、このプロジェクトに参加することになりました。

困っているけど触れにくかった、ネコというテーマ。

最初に取り組んだのは、御蔵島で暮らす島民へのアンケートです。一軒ずつドアをノックして訪問し、ネコについてどう考えているかをお聞きしました。そこで感じたことは、当時ネコの話題は島の中で触れにくいテーマだったこと。野生化したネコが森で生き物に影響を与えるほかに、里まで降りてきて生活被害を起こすこともありました。ただ、そのネコを一体どうすればいいのかが分からない。本来、ご近所どうしの仲が良い小さな島にも関わらず、ネコが好きな人も嫌いな人もいる中で、ともすれば対立が生まれるテーマでもあり、お互いに触れにくい話題だったのです。

私は一人ひとりに向き合い、なるべく中立の立場でお話しするよう心がけました。そうすることで、島民の方々は本心を話してくれました。その多くが「ネコに対して優しい方法であれば、捕獲するのは賛成だよ」という声でした。現在、島民の多くがネコの捕獲や飼養に協力してくださっていますが、今思えば第三者である私が「島民の心の声」を見える化したことが良かったのかもしれません。

島民説明会

よりよい捕獲とネコたちの命をつなぐために。

プロジェクトの中での私の役割は、捕獲のデータ整理や分析を通して、罠の配置や餌の種類を見直すといった戦術面です。一方で、現地をよく知る島民メンバーと相談していると「現場ではこうした方がいい」といった意見をいただくこともあります。データや生の声を活かして、島民メンバーへの指示だしやマネジメントなども行っています。

もう一つの役割は、捕獲したネコの一時飼養と搬出。御蔵島には獣医師がいません。御蔵島の冬は厳しく、衰弱したネコが捕獲されたり、ネコ風邪が流行ったりすることもあります。メンバーの獣医師と連携しながら、過去に保護ネコ団体でケアをした経験を活かし、ネコたちの命を長谷川さんたちへと引き継いでいます。ネコが元気になり、人に馴れていく姿を、ネコをお世話してくださる島民の方々と分かち合う時がとても嬉しいですね。搬出では、船関係の方々にも大変ご協力いただいています。

優しくてあたたかい、御蔵島の人が好き。

ネコの問題が「触れにくいテーマ」だった時から比べると、島のムードは大きく変わりました。作業をしている途中に「今年はどれくらい捕獲できてるの?」「あそこでネコ見たわよ」「困ったら声かけてね」などたくさん声をかけていただけるようになりました。プロジェクト開始当初、捕獲したネコを一時預かりしてくださる家庭は2〜3軒だったのですが、今年は9軒になり、合計で30匹ほど預かっていただきました。また、プロジェクトで捕獲したネコを10匹ほど島の家庭へ迎え入れていただいています。

思えば、最初にアンケートで回らせていただいた時から、島民の方々は本当に優しくて、あたたかくしていただきました。御蔵島の人たちの心に触れ、すぐに「この島のために、何か力になりたい」と思うようになりました。それから島民の方々と一緒に作業して、さらに深く関わっていくようになりました。御蔵島は、私にとってただの調査・研究の対象というわけでなく、いろいろなことを教えてくれた場所です。このプロジェクトが終わるまで、御蔵島に関わり続けたいと思います。

野瀬さんと亘先生